MPS研究会 第9回学術集会 報告

筋筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では2012年6月2日 土曜日、3日 日曜日の両日、東京 錦糸町にて第9回 学術集会を開催しました。

第9回 学術集会 世話人 小林 只 先生

第9回 学術集会 世話人・総合司会
小林 只 先生

今回は学術集会の総合テーマを『MPSの展望と今後の期待~基礎と臨床の融合~』として、前回に引き続き基礎医学と臨床医学の両面からアプローチをすることを目的としました。

また、今回は入会条件変更後の初の学術集会となり、皆様のご協力を経て、実技勉強会(可動域検査の実際、硬結触診、筋同定など)も実施いたしました。

6月2日 土曜日 実技勉強会

初の試みとなる実技勉強会では、トリガーポイント治療の基本となる可動域検査、硬結触診、筋同定などについて学びました。

今回は名古屋大学環境医学研究所·一般社団法人 筋骨格系疼痛研究会 理事 林功栄先生による三角筋前部繊維の実技演習、臨床トリガーポイント研究会 代表 森田義之先生による棘下筋の実技演習が並行して開催されました。

これらの実技勉強会では、会員が非常に興味深く講師の説明に聞き入っていました。

林功栄先生による三角筋前部繊維の実技演習

林功栄先生による
三角筋前部繊維の実技演習

森田義之先生による棘下筋の実技演習

森田義之先生による
棘下筋の実技演習

薬事案内 ビタカイン製薬 阿部真博 氏

 ビタカイン製薬 阿部真博氏

ビタカイン製薬 阿部真博氏

続いて薬事案内として、ビタカイン製薬 阿部真博 氏より「急性腰痛症におけるトリガーポイント注射による有用性の検討」に関する報告がありました。

これは、急性腰痛症例を対象として、同社のネオビタカイン注によるトリガーポイント注射の有用性を検討したもので、93.3%の患者から「よかった」以上の満足度を得て、医師による全般改善度の評価でも93.3%の症例において「改善」以上の評価を得た症例報告です。

会員プレゼンテーション

腰椎椎間板ヘルニアとMPSの関係 - 黒田有佑 先生

黒田有佑 先生

黒田有佑 先生

続く会員プレゼンテーションは黒田有佑先生による「腰椎椎間板ヘルニアとMPSの関係」です。

これは「腰椎椎間板ヘルニア」と「MPS」に相関性について検証をしたもので、今回はMRIなどから判断した障害神経根のレベルと圧痛(トリガーポイント)がある筋肉との関連について調査をした結果の発表がありました。

筋膜の痛みの最新知見 -
名古屋大学 環境医学研究所ストレス受容・応答研究部門神経科学分野II 田口徹 助教

特別講演

特別講演

今回の学術講演は『筋膜の痛みの最新知見』と題して、名古屋大学 環境医学研究所ストレス受容・応答研究部門神経科学分野II 田口 徹 助教 より、ご講演をいただきました。

この講演では今まで基礎医学研究においてあまり着目されてこなかった筋肉の中でも、特に筋膜に関する最新の研究状況について講演をしていただきました。

最新の研究では筋膜そのものにも侵害受容線維が分布し、最終的には侵害受容器が存在する事が確認されている事を説明していただきました。

名古屋大学 田口徹 助教

名古屋大学 田口徹 助教

これはMPSという病態を更に解明をする為にも大きな発見であり、今後も基礎医学研究において筋肉、筋膜の痛みのメカニズムの更なる解明を期待をする所存です。

尚、この講演は日本整形外科学会教育研修会の承認を受けて、専門医資格継続単位を1単位を取得できる教育研修講演として行われました。

会員プレゼンテーション

スキマブロックによる 診断的治療と新しい治療法 – 木村ペインクリニック 院長 木村裕明 先生

木村裕明 先生

木村裕明 先生

一日目最後のプレゼンテーションは当会会長 木村ペインクリニック 院長 木村裕明 先生によるMPSに対する新しい診断法・治療方法に関するプレゼンテーションです。

木村先生は2008年にスキマブロックという独自のMPS治療方法を発表されて臨床の場で有用な事を証明されてきましたが、今回はその治療法を応用して、腱にあるトリガーポイントの診断と生理食塩水を筋膜間に注入する治療方法について発表をされました。

この筋膜間生食注入法は、局所麻酔薬を使ったスキマブロックより有効で、今までは難しかった神経、血管の近くにも施行できる点などを、発表されました。

6月3日 日曜日 会員プレゼンテーション

マッケンジー法が無効だった慢性腰痛の2例 - 佐々木整形外科 院長 佐々木哲也 先生

佐々木哲也 先生

佐々木哲也 先生

二日目の初回のプレゼンテーションは佐々木整形外科 院長 佐々木哲也 先生によるマッケンジー法が無効だった慢性腰痛の症例紹介です。

これは慢性腰痛を持ち、内服治療、理学療法、マッケンジー法、硬膜外ブロック療法などを行ったが最終的に良くならなかった患者さんに対して、トリガーポイントブロック注射とトリガーポイント鍼療法を併用して治療をした結果、快方に向かった事例を、具体的な佐々木先生の診断、治療法と共に紹介をしたものです。

シンポジウム

シンポジウム司会 黒田 知也 副会長

シンポジウム司会 黒田 知也 副会長

二日目のメインセッションとしてシンポジウムを行いました。

今回は「MPSの診断について考える」をテーマにしてシンポジスト5名によるプレゼンテーションを行った後に、そのプレゼンテーションの内容をベースにし、全体で質疑・討論を行いました。

シンポジスト(発表課題)

最初にシンポジスト5名から筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の診断ついて発表がありました。

小林只 先生 (本学術集会 世話人) 『筋痛症/MPSの特異的診断方法』
【要約】

プライマリケア・総合診療に主に携わる立場から病歴、診察から、筋痛症muscle painを特異的に診断し、MPSやTpによる病態と診断を絞り込む方法をまとめた。また、MPSやTpに関する用語の整理を提示した。

小林只 先生
トリガーポイント研究所 佐藤恒士 所長 『日常動作からの罹患筋推定』
【要約】

動作痛を起こす筋の推定原理、痛みを示す仕草からの筋の推定方法、日常動作からの罹患筋を推定方法、関連痛の連鎖による治療ポイント推定方法を考える。

トリガーポイント研究所 佐藤恒士 所長
山下クリニック 院長 山下 徳次郎 先生 『圧痛・関連痛の評価』
【要約】

MPSで観られる痛みの種類とその発生形態について確認を行ない、罹患筋の診断や活動性TPの検索を行なう際にそれらを如何に評価するべきであるかについて述べた。
また、私が日頃行なっている鍼によるTP治療における関連圧痛を利用した治療部位の決定法について紹介した。

山下クリニック 院長 山下 徳次郎 先生
臨床トリガーポイント研究会 代表 森田義之 先生 『MTPによる触診方法』
【要約】

疼痛が起きる動作、姿勢の確認方法、痛みの種類の確認、TP内包筋の抽出などについて報告した。

 臨床トリガーポイント研究会 代表 森田義之 先生
名古屋大学 環境医学研究所 ストレス受容・応答研究部門神経系分野II
『基礎医学的知見から考えるMPSとトリガーポイント 』
【要約】

MPSに関するSimonsとTravellの想定を実証すべく研究を行い、その結果、筋への過負荷によりNGF(神経成長因子)が増加すること、NGFを連続投与する事によりトリガーポイントが形成されることが実証されている事などを紹介した。

 名古屋大学 林功栄 先生

質疑・討論

名古屋大学 田口徹 助教

名古屋大学 田口徹 助教

シンポジスト5名の後、名古屋大学の田口徹先生を交えて各種質疑・討論が行われました。参加者からは非常に多くの質問、意見が非常に多くあり、実際に腸腰筋にできたトリガーポイントの治療方法など実技が行われるなど非常に多くの情報が交わされました。

予定の時間を全部使い切っても足りない位の議論が行われ、最終的に非常に有用な情報交換をすることができました。

総括

今回の学術集会では、『MPSの展望と期待 ~基礎と臨床の融合~』というテーマにも基づき、前回に引き続き基礎医学と臨床医学の両面からさまざまな議論、情報交換を行う事ができました。

特に今回は臨床の面では、鍼灸、理学療法など新たな分野からの参加していただくことにより非常に有意義な会となりました。

今後も本研究会を通して、今回のような多面的な情報交換を行うことにより、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)のより詳細な原因、症状、治療方法の研究に寄与してゆく所存です。

ご多忙の中ご講演、実技勉強会をいただきました 名古屋大学 田口徹 助教、林功栄 先生、臨床トリガーポイント研究会 森田義之 先生を代表とされる方々、運営にご協力をいただいたビタカイン製薬様を始めとする、全ての関係者の方々へ、この場を使い感謝の意を表させていただきます。

筋筋膜性疼痛症候群(MPS) 研究会では、今回のような学術集会を始めとする場で痛み、筋筋膜性疼痛症候群に対する理解を深め、治療技術の発展の為、ともに研究を行う治療者、研究者を募集しています。詳細は入会についてを参照願います。

なお、本学術集会の内容は、会員は会員コミュニティページより動画で視聴できます。